補修「前提」を終わらせる
高見澤の「バジリスク」を、大松建設が使ってみた

長野市発注の工事で、大松建設(長野市、井上善行社長)は暗渠ボックスカルバートに、高見澤(長野市)が販売する自己治癒型コンクリート「バジリスク」を採用した。ひびが入れば水や酸素でバクテリアが活性化し、炭酸カルシウムで充填、再び休眠に戻る――見えない場所ほど効く「補修レス」の発想だ。更新サイクルを伸ばし、ライフサイクルでのCO₂排出も抑える。小規模から実装を始め、実績を積み上げて標準に近づける。
①暗渠に自己治癒を仕込む
大松建設は、暗渠化する既存横断水路のボックスカルバートに自己治癒型コンクリート「バジリスク」を採用した。延長約900mの線形に沿って、舗装止めの縁石を据え、舗装と交差点部の安全施設までを仕上げる工事だった。搬入路が一方通行という制約下でも工程の混雑を生じさせることなく竣工させたほか、点検しづらい暗渠部に自己治癒という考え方を入れたことなど細部の工夫が高く評価され、本工事は2025年度の長野市優良工事表彰を受けている。
「人が入れない場所で何かあったらいけない。維持管理の視点で、見えないところを見据えた選択だった」と、同現場に携わった太田裕子さんは振り返る。ひび割れが生じても、コンクリート内部に混入された「休眠バクテリア」が水や酸素に触れて活性化し、炭酸カルシウムを生成して自然に割れを閉じる。そして再び休眠に戻る。この呼吸のようなサイクルが、補修の手間を前提としてきた現場の思考をひっくり返す。暗渠のように目視確認が難しい場所ほど、この仕組みの価値は浮き彫りになる。
長野市発注の道路築造工事でバジリスクを活用した
②割れたら塞ぎ、また眠る
バジリスクは、生コンクリートの製造時に特殊培養したバクテリアとポリ乳酸を混入する自己治癒型の材料だ。ひび発生後に水や酸素に触れるとコンクリート内部のバクテリアが活性化し、炭酸カルシウムを生成して2週間程度でひびを充填、その後バクテリアは再び休眠に戻る。
バジリスクの自己治癒メカニズム
価格は従来品比で1~2割増(製品により異なる)。県内では山ノ内町の農業用水路(プレキャスト三面水路・延長20m)や、茅野市の側溝(自由勾配側溝・延長110m)でも採用実績があり、点検しづらい箇所や水の影響を受けやすい施設で効果が期待される。
技術はオランダ・デルフト工科大学に端を発し、国内では曾澤高圧コンクリート(北海道苫小牧市)がライセンスを取得、量産化に成功しNETIS登録の自己治癒コンクリートとして展開されている。
バジリスクによるひび割れ修復
③「高くても選ぶ」
井上社長は、高見澤から技術説明を受けて「活用できる」と踏んだという。「正直『嘘くさい』と感じたが、『騙されてみよう』と思った。水の侵入を逆手に取って自己修復を促す仕組みが、とにかく面白かった」。価格は従来比で1~2割増だが、それでも「新技術は高いのが当然。やる価値があると判断した」と迷いはない。長野市は、目視でのひび割れ確認が難しくなる暗渠である点が採用の後押しとなり、導入を前向きに進めた。
大松建設の井上善行社長
④更新延長、CO₂削減
自己治癒は更新サイクルの伸長をもたらす。高見澤によると、重大な劣化を生じない前提で、耐久性換算は約1.5倍超、約100年まで視野に入る。樹脂注入などの補修を繰り返す従来工法と異なり、ひびを自ら塞ぐ。点検が難しい場所ほど、更新までの猶予は経費と手間の削減に変わる。今回のボックスカルバートはもちろん、橋梁の床板や大規模構造物など応用の余地は広い。現場担当者は「小規模・少量からでも入れられる新技術は、目新しくない工事ほど差別化になる」と続ける。日常の工種にこそ、標準を塗り替える余地が潜む。
さらに環境面での意味合いも大きい。更新が先送りになれば、再整備に伴うセメント・コンクリートの使用量を抑えられる。ライフサイクル全体での排出が下がる。
井上社長は、気候変動が現場にもたらす負荷を実感している。「夏の暑さは本当に厳しい。線状降水帯や異常気象の影響も現場を直撃する。CO₂排出削減という、やらなければいけないと分かっていても進まないことほど、『出さない』『増やさない』技術を率先してやるべきだと思う」。
バジリスクによるライフサイクルコストとCO₂排出量の削減(従来施工と比較)
⑤小さく始めて標準へ
今回の経験を踏まえ、井上社長は視線を先に向ける。「まずは実績。売る側と使う側の両輪がそろえば、標準は変わる。当社は身銭を切ってでも社会のためになるならやる」。大規模構造物などでの適用にも期待感をにじませていた。
「柔軟な頭が必要。決まりを守ることが目的になると、目標からずれる」。井上社長の言葉は、技術導入の本質を突く。ファーストペンギンが一歩を刻めば、実績は伝播する。更新を先送りにし、CO₂を抑える仕組みを見えないところへ仕込む。「補修レス」という新たな当たり前を、長野から実装する。今回の暗渠での選択は、小規模でも確かな一歩だ。人が入れない場所こそ、ひびを放置しない仕掛けが要る。