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現場の前から、脱炭素
高見澤が製造工程で挑むGX

国土交通省は2025年4月に公表した「脱炭素アクションプラン」で、直轄工事におけるコンクリート資材の低炭素化を明確に打ち出した。建設業におけるグリーントランスフォーメーション(GX)は、建機の電動化や現場での省エネを超えて、資材の製造工程という「川上」の領域にまで本格的に踏み込もうとしている。
そんな中、建設資材を販売する高見澤(長野市)は20年前からセメントの一部を高炉スラグに置き換えるコンクリート2次製品を製造してきた。その技術は今、低炭素コンクリート『Locacon(ロカコン)』というブランドとして再定義され、国土交通省の現場への納入も始まっている。
①脱炭素は施工前から始まる
国土交通省は2025年以降、直轄工事における低炭素型コンクリートの導入を段階的に進め、将来的な使用原則化を視野に入れた試行的な適用を開始する。従来、環境配慮といえば建機の燃費向上や電動化が話題の中心だったが、今後は建設資材そのもの――特にコンクリートの「つくり方」へと向かいつつある。製造段階からCO₂排出量を削減する資材選定が、建設業のGX(グリーントランスフォーメーション)を左右する時代となった。

コンクリートは、建設業界における最大のCO₂排出源の一つだ。セメントの製造過程では高温焼成に大量の化石燃料が使われ、世界全体の温室効果ガス排出量の5~8%を占めるとされている。
この問題に対し、国は高炉スラグ微粉末などセメント代替材料の活用を推進するとともに、製造や養生工程でCO₂を吸収・固定化する新技術の実装にも乗り出している。
こうした動きを後押しするのが、2024年の「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」改正だ。価格だけでなく、環境性能や生産性、安全性なども含めた「総合的な価値」で資材を評価・選定する方針が打ち出され、資材調達における脱炭素への評価軸が明確になった。
この新しいルールのもとでは、環境性能の高い資材を選ぶことが競争優位に直結。コンクリートのようなインフラに欠かせない資材ほど、そのインパクトは大きい。
「まだ試行段階にすぎない」「地方ではコストが合わない」という声があるのも事実だ。しかし国は調達義務化を視野に、対象工事の段階的拡大を進める方針を示している。
②Locacon、国の現場へ
2023年、高見澤が製造する「Locacon(ロカコン)」が、国土交通省中部地方整備局発注の河川工事で、ボックスカルバート部材として採用された。Locaconは、セメントの最大60%を高炉スラグ微粉末に置き換えた低炭素型コンクリートだ。鉄鋼所の副産物である高炉スラグをセメントに置き換えることで、セメント製造時のCO₂排出量を大幅に削減。この工事で使用された製品だけでも、従来品と比較して約3350kgのCO₂削減を実現したという。


同社では、製品ごとの削減量を独自に算出し、「削減証明書」として数値化された形で顧客に提示することも可能だ。今後、地方自治体や発注機関が環境価値を加点評価する制度や調達指針を整備すれば、こうした証明書が競争力の源泉となる可能性は高い。
広報の遠藤万里さんは「価格で比較されるだけでは、環境配慮型の資材は選ばれにくい。だからこそ、削減効果を見える化することで、適切に評価される仕組みを社会に根づかせたい」と話す。
③「タフ」な技術が、「やさしい」に変わる
同社が低炭素型コンクリートの製造を始めたのは2000年代初頭。当時の目的は、寒冷地における凍結融解対策や構造物の長寿命化で、「脱炭素」や「SDGs」といった言葉を意識したものではなかった。製品はその後、「T-con」と名付けられ、Tough(タフ)の頭文字を冠したネーミングからも、耐久性重視のブランディングがうかがえる。
しかし時代は変わった。2020年代に入り、温室効果ガスの削減が世界共通の課題となる中で、セメント製造が1トンあたり800~900kg ものCO₂を排出するという現実に、国内外の注目が集まりはじめた。コンクリートは建設業における重要な資材であると同時に、環境負荷の大きな起点ともなる。脱炭素を求める社会の要請は今、資材そのものの「つくり方」に向けられている。
こうした流れを受け、同社は2年前、小布施工場におけるセメント置換率を従来の40%から60%に引き上げ、CO₂排出量削減に本格対応する高置換型製品の製造・販売を開始した。

社内では当初から「環境にやさしい技術」としての認識があったが、顧客にその価値を明確に伝えるため、 新ブランド「ロカコン」を立ち上げた。ブランドロゴには、信州の山をモチーフに「地域の緑を守る」という思いを込め、CO₂削減量を示すグラフのイメージも重ねてデザインされている。

④「60%の壁」をどう超えたか
高炉スラグ微粉末のセメント置換率を引き上げることは、より一層の環境負荷の低減につながる。一方で、製造現場では技術的課題も。特に課題となるのは、コンクリートの初期強度と脱型サイクルへの影響だ。
遠藤さんは「1日で型枠を外して次の工程へ移る必要がある。初期強度が出なければ、工場の生産性が落ちてしまう。そこが最大のハードルだった」と振り返る。
実際、国交省の試行工事では置換率55%以上の資材調達が求められるが、多くのメーカーが55%止まりにとどまる中で、同社は保有する3工場のうち、小布施工場と伊那工場の流し込みで製造する全ての製品を置換率60%で製造する。
この高置換の実現には、20年にわたる試験練りと配合調整の積み重ねがある。骨材が一つ変われば水分量も変化し、細かな調整が必要になる。高見澤は、従来の置換率40%製品で培ってきた知見を活かし、60%でも初期強度を確保。製造工場の稼働サイクルを崩さないことで、生産性を落とすことなく供給の安定性を維持する。

⑤「60%」の先にある「2045年」の約束
「60%」という高置換率の実現は、単なる技術革新ではない。「2045年までに製造段階のCO₂排出量をネットゼロにする」という同社の長期ビジョンを見据えた一歩だ。
工場屋根への太陽光発電の導入を皮切りに、今後は営業車両のEV化や再生可能エネルギーの利用拡大、大気中のCO₂を吸収・固定する「カーボンネガティブ材料」の活用などの取り組みが段階的に検討されている。
社員の約95%が県内出身というところも「地元のために脱炭素を進める」という方針を現実味のあるものとして支えている。遠藤さんは「建設業は山を切り開き、木を伐り、セメントを使う。環境破壊の象徴と見られがちな業界だからこそ、まずは私たちが動かねばならない」と語る。